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[事例]バッテリー開発:Li-S電池用のグラフェン材料調査


昨今では、生活へ欠かせない高機能バッテリーが新規材料開発のホットスポットであり、 そしてこの分野の新規材料開発は、さらなる高機能、安定性、コンパクトさを必要としています。 その要望には、バッテリーはマクロなイオン拡散からミクロな電気的特性まで、幅広いスケールの調査と解析が必要です。
この特集では、Materials Studioを研究に活用しているバッテリーをテーマにした論文の紹介や計算の再現をしております。


充放電による繰り返し使用が可能という特徴をもつ二次電池には多くの種類があり、その中にはリチウム-硫黄電池(Li-S電池)と呼ばれるものがあります。 しかし、このLi-S電池は高い理論的容量を持つ特徴を持っているにもかかわらず、電池内に含まれる多硫化リチウム中間体の拡散や溶解などという問題も有しております。
本論文では、カソードには窒素と金属がドープされたグラフェンを使用することで、多硫化リチウム中間体に対する金属部分への吸着エネルギーを解析しております。


計算モデルと手法

多硫化リチウム化合物の吸着エネルギーは、 「ELi2Sn + EAM - ELi2Sn/AM」 と表すことができます。
そこで、この式に当てはまる構造のエネルギー計算を行うことで吸着エネルギーを求めました。
加えて、複数のポリスルフィドやグラフェン上の金属原子のパターンに対して同様の計算を行い比較することで、ポリスルフィドの硫黄数と吸着エネルギーの関係性などを比較しました。
こちらの論文内でのシミュレーションには、量子力学計算に幅広い計算対象を取ることが出来るDMol3モジュールを使用しております。


求められた物性値の考察

上に様々なLi2Sn/AMのPDOSとエネルギーを示しました。
まず初めに、左のPDOSではCo-3d軌道とS-3p軌道との間には強い重なりがあり、 このことからポリスルフィドとCo-N4/graphene間には強い相互作用があることが示唆されています。
次に、ポリスルフィドの鎖長や金属を変化させた場合の相互作用の変化を表したプロットを右に示します。
このプロットからは、調査した各種金属のうちCr、Fe、Mn、Cuが使用された場合にはポリスルフィドとCo-N4/graphene間には強い相互作用があること、 ポリスルフィドの鎖長が短くなればより相互作用が強まることが観察されます。