「足りない不安」で倉庫を埋めていませんか?
― 安全在庫とは、削るべきムダではなく、
操業を守る「適正な保険料」 ―
在庫を増やせば欠品は減りますが、企業の資金を圧迫します。逆に限界まで減らせば、現場は常に「欠品におびえる綱渡り」を強いられます。このトレードオフに、どう決着をつければよいのでしょうか。
その答えは、統計学を用いた「リスクの数値化」にあります。
安全在庫の考え方を用いれば、過去の需要のバラツキ(標準偏差)から将来の変動を「推定」し、「何%の確率で欠品を回避するか」という経営判断を、数理的なマージンとして落とし込むことができます。
本コラムが「勘と経験の在庫管理」から、「技術に基づいた在庫管理」の第一歩となれば幸いです。
発注点
1日の需要が一定量μ(個)、リードタイムがL(日)の場合を考えます。このとき、発注点をKとするとK=μL(個)です。
先ほどのモデルでは一日の需要が一定量μとなっていました。しかし実際には正確に一定であることは少なく、バラツキがあるケースがほとんどです。バラツキを考慮するため以下のようにモデル化します。
一日の需要が正規分布に従うと仮定します。そのときの平均需要をμ、分散をσ2とします。
リードタイム(発注してから倉庫に届くまでの時間)をL[日]とすると
σ2のバラツキがL[日]あるので、
そのため総標準偏差は √L σとなる。
これまでの計算で総標準偏差は√L σとなることが分かりました。これはリードタイム期間中の不確実性を蓄積したものです。
では√L σの在庫を持てば欠品を防ぐことができるのでしょうか?
実は√L σの在庫数では正規分布上では「84.1%でしか欠品を防げない」と言えます。
もし「95%」や「99%」といったより高い確率で絶対に欠品を防ぎたい場合、このリスクの基準値 √L σを「何倍に引き上げるか」という調整が必要になります。
その調整のための係数を安全係数と言います。
安全係数をkと置いたとき、
となります。
以下の表に例として安全係数と欠品を防ぐ確率の関係を示します。
まとめ
これまで安全在庫について述べてきましたが、運用面で大事な点をまとめてみました。
1. 予測の精度を上げる( σ の抑制)
需要のバラツキ(標準偏差σ )を小さくできれば、安全在庫はダイレクトに削減することができます。データ分析と情報共有の強化が、そのまま在庫圧縮に直結すると言えます。
2. リードタイムを縮める( √L の効果)
安全在庫はリードタイムの√Lに比例します。もし調達期間を4分の1に短縮できれば、備えるべき在庫リスクは「半分」にまで減少することができます。
3. 覚悟を決める( 安全係数k による経営判断)
基準値√Lσを何倍にするかを決める安全係数kは、「人間の意思決定」により導入されます。すべての在庫で完璧を目指すのではなく、重要度に応じて「守る確率」に傾斜をつけることが重要です。
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