EAM のコンサルタントであるTerry Wireman は、彼の著書[1] の中で、 保全業務の進展の様子を保全業務の機能として分類し、各機能で必要な業務指標について説明しています。
今回のメールマガジンでは、彼の唱える保全業務のプロセスを紹介しながら、日本での状況と比較したいと思います。
海外の保全スキームは、日本の風土に合わない場合がありますが、彼が提示する保全業務のプロセスは、 そのまま日本の保全業務の改善スキームに当てはめることができます。
以下に、本著書を参考にプロセスとそこで必要なツールや考え方を追記して説明したいと思います。
【保全業務のプロセス】
1.予防保全 (PM)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PMプログラム (スキーム) は、保全業務における基本です。
事後保全の削減を目的に、計画的にメンテナンスを実施します。
ツールとしては、Microsoft® Excel 等のスプレッドシートや、ファイルサーバを用
いて、情報の共有化を図ります。
日本では、全体計画や長期計画から年次・月次まで展開するために保全カレンダを用
います。
2.在庫 (予備品) と調達・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
在庫と調達の管理は、『正しい部品を必要な時に』を実現するための機能です。
もし、保全システムを用いなかったとしても、予防保全や依頼から発生する工事や
作業と併せて記録・管理しています。
以上は、保全システムの有無に関係なく、多くの企業が実施している内容です。
多くの企業では Excel ブック等を用いて管理を行い、社内や部門のファイルサーバ上で
ルール付けをして管理を行っているところが多いと思います。
ただし、もしも適切な保全システム等を用いずに、ファイルや人力で管理している場合、
情報が一元管理されていないため、同一情報の修正漏れや、これに基づいて実施される
メンテナンスの不具合等が発生する可能性があります。
3.Work Order システム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
保全に係る作業を記録する仕組みです。
依頼に対する処置、工事、エンジニアリング・アクティビティ等の全てを記録し、追跡
できる枠組みです。作業実施に当たっては、業務フローの管理が必要となります。
これらの実績が追跡、参照および評価できることで効果的な計画の作成や調整が可能と
なります。
以上で、保全に関わる基本情報が出現しました。 計画作業および計画外で発生する作業を
文書ファイル、スプレッドシートとメールやファイルサーバ等を用いて、 手作業で管理す
る場合やドキュメント管理システムやグループウェア等を用いて管理する場合があります。
4.保全管理システム(CMMS)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
殆どの保全管理システムは、設備、予防保全の管理、設備と紐付けられた作業の管理、
予備品の管理、工事や作業等のコストの管理を行います。
保全管理システムを用いることにより、項目 1, 2, 3 で扱っていた情報が一元管理さ
れ、文書と設備、作業、作業履歴が有機的に関連付いた形式で管理されます。
これを利用することにより設備の状況、保全業務の状況、作業の質的な管理が可能とな
ります。一元管理された情報から故障の分析や保全業務の質的分析が可能となります。
以上は、保全業務、顧客へのメンテナンスサービスを提供していく上での基本的な仕組み
(インフラ) です。情報が一元管理されることで、以後の業務の改善に繋がっていきます。
5.技術検討会や教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
CMMSに蓄積された情報を分析することにより、故障状況や不具合が定量的に見えて
きます。応急処置の他に恒久対策が検討事項となります。
この結果、設備、保全方式に対する見直しや対象を良く知るための教育が重要な課題と
なってきます。
6.オペレーション部門の包含・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
検討会や教育の結果、対象を良く観察することの重要性がクローズアップされます。
例えば、清掃は、検査の第一歩等。その考えからすると、 最も設備の近くにいる製造部
門や設備利用者の協力を得ることが重要になってきます。
また、オペレーション部門で実施する始業前点検、設備調整、故障時情報の記録、潤滑油
確認、日常点検、 運転情報の記録等の情報を共有することが考えられます。
CMMSの中には、作業依頼とこれの受付や申送り事項の一元管理を行えるものがありま
す。
これを使うと有効な管理ができます。
7.予知保全 (PdM)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
更に進むと、設備の状態そのものをモニタまたは検査し、状況を定量的に把握すること
を検討します。
アラート対応のみならず、検査の結果から、次回の保修予定、取替時期を予測し、計画
に反をすることを考えます。
判定や予測技術が重要となり、専門的な知識が必要となります。
予知保全 (条件ベース保全) は、無条件に実施していた時間ベースによる繰り返し保全の
コスト削減をも目的としています。
8.信頼性中心保全 (RCM)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
故障のメカニズムは、判っても検知できない場合は、仕様を変更する必要があります。
RCMでは、対象物の故障モードとその影響範囲を考慮し設備仕様やエンジニアリング・
アクティビティに反映していく手法です。 その結果として、設備仕様や保全手法の方針
が決まります。 ここで決まった保全内容をCMMSが管理する予防保全や予知保全項目と
して入力し、 実施します。
更に、CMMSに蓄積された故障や不具合情報を分析することで、 設計やエンジニア
リング・アクティビティ等に反映し改善していくことができます。
9.全員参加型保全 (TMP)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
TPMは、生産システムのパフォーマンスを最大化することを目標に、 人材育成、作業の
改善設備の改善を継続的に実施していくための体制や仕組みを作るためのマネジメント
手法です。TPMの実施により上記1~8が合理的に反映されます。
10.統計的手法による財務最適化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
財務統計では、設備に係る費用を把握します。 コストには、ダウンタイム・コスト、
機会損失コスト、品質に関係したコスト等を含みます。
「いつ、設備を止めるのか?」・「修理か交換か?」・「重要な予備品は、どれだけ持
てば良いか?」・ 「予備品の適正在庫数はどれだけか?」の様な検討をコスト面から
実施します。 これらの評価を行うためには、保全にかかわる正確な情報が必要です。
11.改善の継続・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
内部統制を徹底し、ヒューマンエラーによるトラブルが起きないよう、プロセスを
継続していきます。
企業の中で、上記が適正な状態にあるかをどうやって判断するか。
ひとつの方法として業務指標 (Performance Indicator)を用いる方法があります。
一元管理された保全に係る情報や関連情報を統計処理し、指標として用いる方法です。
例えば、保全情報がデータベースに一元管理されている場合、この状況を評価するための指標には
1.BM別原因別ダウンタイム (=原因別ダウンタイム/ダウンタイム合計)
2.緊急保全工数割合 (=緊急保全工数合計/保全工数合計)
3.BM費用割合 (=BM処置コスト合計/保全コスト)
4.予防保全の整合性 (=完了したPMタスク数/計画されたPMタスク数)
5.予防保全見積の整合性 (=計画PMタスクコスト合計/実績PMタスクコスト)
6.貧弱な保全計画による故障発生率 (=Poor PMタスク数/PMタスク数)
7.PM効果 (定期的に実施している検査から派生したフォローアップ作業の割合)
8.機器稼働率
9.作業遅れ率 (=作業遅れ時間数/作業時間合計)
等があります。事後保全 (BM)や緊急保全 (EM)の発生は、 作業の再調整、中止やコスト高を引き起こし上記指標の値を変化させます。
各指標のトレンドを得ることにより保全業務の状況を把握することが可能になります。
※可視化の方法、業務指標等の統計データ表示 も併せて参照して下さい。
ここで、重要なことは、業務指標を用いるためには、 正確な情報が一元管理されている必要があることです。 これを実現するために、CMMSやEAMの様な保全管理システムを導入することが考えられます。 但し、これらのシステムを導入しても、管理のための情報入力を現場に課す様では、運用はうまくいきません。
日常業務を実施していく中で、自然に情報が蓄積される仕組みを用意する必要があります。
言い換えると、業務フローに基づいた作業を実施していく中で必要な情報が蓄積されていく必要があります。 更に、画面構成や操作性は、『直感的につかえる』、『操作が簡単』、『直にどこでも使える』 状況にしなければ、必要な情報の収集は、困難になります。
保全システムを用いて情報を一元管理する場合、 前述の項番1~11のどのレベルを達成したいかにより管理すべき情報が代わります。 また、業務フローに基づいた保全業務プロセスをどこまで保全システムで管理するかでも管理すべき情報が代わります。
更に、これに企業風土や特殊性が加味され、保全システムに必要な機能や構成は、各社各様になります。 カタログベースでは、やりたいことを殆ど網羅するが、実際に利用するとうまくいかないケースが発生します。
今後のメールマガジンの中では、保全情報の持ち方、GUIの困難さについても検討したいと思います。
企業内で保全業務の状況を判断する方法として業務指標を用いる方法を紹介しました。 では、良い方向に進んでいるのか、悪い方向に進んでいるのか? 同業他社と比較してどうなのか? 他社の保全状況は、どうなのか? をどうやって評価するか、が次の問題となります。
よく、ベストプラクティスという言葉で表現されますが、 前述した1~11の指標をうまくいっている企業と比較して自社の弱いところ、強いところを評価し、 今後の保全方針を立てる方法も考えられますが、保全の分野では、意味がありません。 理由として、
1.うまくいっている企業は、指標を公開しない
2.設備は、同種の企業でも設置環境、運用状況、保全状況、経年状況が異なれば様相が異なる
3.設備管理方式の違い
等が挙げられます。 自社の過去の指標と比較してどうかを検討すべきです (トレンドを評価) 。
但し、統計処理を施した指標は、 実態を隠す場合があるので、複数指標の利用、指標の特性やパラメタの公開を行い、平均化のためのパラメータ は、慎重に選択する必要があります。
(「magazine について > 業務指標等の統計データ表示について」もあわせてご覧ください)
備考
[1] Developing Performance Indicators Manageing Maintenance、Industrial Press発行
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株式会社ウェーブフロント
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メール:sales@wavefront.co.jp
TEL:045-682-7070